ごあいさつ
会員の皆様におかれましては、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
新たな令和という元号が定まり、時代の転換点を迎えています。日本官能評価学会も、2016年9月に一般社団法人として登記されて、3年目を迎えることになります。この間、産官学の多くの研究者・技術者の皆様から多大なご支援を賜り、順調なあゆみを進めてきており、衷心より感謝申し上げる次第です。
さて、産業界に目を向けますと、昨今消費者ニーズの多様化とともに流通からの圧力が強まる中、生産現場における官能評価の必然性が益々増してきています。従来はややもすれば、経験や慣習に則ったやり方が何れの側にもみられました。しかし、流通側の官能評価に対する理解が進む中でメーカーに、より客観的な説明を求めてくるようになりました。しかし、官能評価も商品によっては、一筋縄でいかないものも出てきています。
かつて、筆者が経験したことですが、社会の高齢化に伴って「高齢者をターゲットにした商品(食品)開発を検討せよ」との指示が会社から下りました。会社はその前年、糖尿病食の開発に成功し、調理技術に自信を深めていたので、至極当然の流れであったと思います。早速、公務員であった友人に高齢者施設を紹介してもらい、試作品を携えて高齢者に官能評価をしてもらいました。もっとも、直接実施できないので施設の管理栄養士さんに橋渡しをしていただき、試食してもらいました。調査票は、5つほどの評価項目を5段階のカテゴリー尺度で回答してもらうものでしたが、何れの項目も最高の評価でした。何人かの評価者で評価する中で、何れの高齢者も相手を慮って、悪いことを言わないということに気づき、ことばによる官能評価の難しさを痛感しました。結局、この時は評価者の表情を観察して満足度を測定しました。
理事会で、今年度のテーマを議論する中で、ことばによるコミュニケーションの難しい例として、高齢者の他にも幼児や医療現場の患者などが挙げられました。このような議論の経緯から、官能評価に新たな視点が必要との思いに達し、今年度の大会のメインテーマを「言葉によらない官能評価」に決定しました。
今回は、ことばを使うことなく、対象者の楽しさや痛みなどの心の問題、あるいは医療現場での患者の生理的・心理的評価方法についてご研究されている先生方をお招きして、現状とこれからの展望について共有化したいと思っています。多くの皆様方の参加とともに、活発なご議論を切望しております。
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一般社団法人日本官能評価学会
会長 小塚 彦明